新着情報

2021.05.14 (Fri)  23:05

パレスチナからの熱い叫び

 多くの皆さんがご存じのように、5月10日からイスラエルとパレスチナが激しく軍事衝突、いたいけな子供を含む市民に多くの犠牲者が出ています。

 ところが、メディア報道を読んでいても分かりにくく実態を把握できないという声が少なくありません。そこで50年にわたって現地を見てきた私が、現地からの情報に独自の視点を加えて、皆さんに分かりやすく、今回の出来事と問題点を解いてお届けすることにしました。

 

 今回の軍事衝突の発端は、パレスチナ自治区西岸地域の住民を震え上がらせるイスラエル兵による「住民のeviction(追い立て)」です。イスラエルはユダヤ系国民が住む入植地の建設用地確保のためにパレスチナ住民の土地を収奪しているのです。

 イスラエル政府は1970年代からユダヤ国民を住まわせる「入植地」という名の巨大な住宅団地をイスラエル領土ではなく、パレスチナの領土に建ててきました。もちろん国際社会からは強く非難を浴びてきましたが不法行為はお構いなしに続けられ、それは、領有地の線引きをイスラエル・パレスチナ双方が決めた1993年のオスロ合意後も政権が変わると再開されました。

 入植地の造られ方を簡単に説明すると、まず、イスラエル政府の決定を受けて形ばかりの法的手続きが取られ警察や軍隊が動きます。命を受けた警察官や兵士はパレスチナ住民を追い出します。そうして更地にされた土地にあっという間に周囲を圧倒するコンクリートの巨大な塊が出現します。日本で言うニュータウンです。パレスチナ西岸地域にこれまでに建てられた入植地は約140。そこに住む住民の数は60万人を超えています。

 私も何度か取材で現場に入ったことがありますが、evictionは残酷そのもの。後ろめたさ故か多くの場合、深夜行います。駆り出された兵士たちは住民が泣き叫んで抵抗しても容赦なく屋外に連れ出します。そして、時には住民の目の前でブルドーザーを使って建物を粉砕してしまうのです。

 コロナ禍にあって入植地建設が大幅に遅れたこともあり、土地収奪はしばらく収まっていましたが、皆さんご存じのように、イスラエルは「ワクチン接種最先進国」です。コロナ感染の恐れが大幅に減少すると、先月末辺りからevictionが再開されました。

 パレスチナ人はそれに強い危機感を持ち、これまでにない抵抗を繰り返していました。その辺りのニュースは、私の知る限りでは、日本メディアでは見られませんでした。だから、今回の軍事衝突が皆さんには唐突に感じられることと思います。

 

 土地収奪を阻止しようと、欧米からの平和活動ヴォランティアがパレスチナに常駐しています。evictionの情報が入ると彼らは対象家屋に泊まり込んで住民を支援するのです。

 最近もevictionの数が増え、それに伴ってイスラエル軍が強行する場合も増えているとの情報がありました。特に、エルサレム近郊の村シェイフ・ジャラーでは事態が深刻で、逮捕者や負傷者が出ていました。

 それに呼応する形でガザ地域を実効支配するハマースから月曜日、イスラエル国内に向けてロケット弾攻撃が行われました。それに腕をこまねいて見ているネタニヤフ(イスラエル)首相ではありません。ただちにガザのハマースの拠点やロケット基地に空爆を行いました。メディアの言う“報復攻撃”です。それに対してハマースは再びイスラエル各地にロケット弾を撃ち込みました。双方の多くの家屋が破壊され、人的被害が多く出たのは言うまでもありません。

 

 イスラーム社会は今週、「ラマダン明け(断食月)」「金曜礼拝」「ナクバの日」と立て続けに重要な日を迎えています。

 今日、5月14日は「金曜礼拝」の日です。信仰心の篤いパレスチナの人たちは朝から家族で近くのモスク(礼拝所)に行き、祈ります。それだけに目の前に立ちはだかるイスラエル兵や戦車は、礼拝を終えた若者たちの目には憎悪でしかありませんからこの日に投石行動に移ることが多いです。

 さらに明日は「ナクバ(Nakba)の日」です。

 73年前の今日、ユダヤ勢力がイスラエルを建国すると宣言しました。そして軍事行動を強めました。多くのパレスチナ人たちが家の鍵を持ったまま二度と帰れないまま人生の幕を閉じています。

 そのような背景から、故郷を追われたパレスチナ人たちは翌5月15日を、怨念を込めて破局を意味する「Nakbaの日」と名付けたのです。それだけに明日はさらに多くの人が抗議活動に加わる可能性は高く、私はとても憂慮しています。

 フランスなど一部の国が憂慮する声を上げ、仲介の労を取ろうとの動きもありますが、絶望の淵に追いやられた感のあるパレスチナの人たちの心に届くまでのものではありません。日本政府も米国に遠慮することなく、日本独自の立場で働きかけることが強く求められますが、残念ながらオリ・パラやコロナ禍で頭がいっぱいの菅首相にはその余裕はないと思われます。