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映画『ベルファスト』
親しくしていただいている映画評論家の井上健一氏が紹介する映画『Belfast』は、60年代後半から70年代にかけて凄まじいゲリラ戦が繰り広げられた北アイルランドが舞台の作品です。
駆け出しのジャーナリストだったくにおみはその頃、ロンドンに住んでいました。北アイルランドにも何度か足を運び、カメラを何台も肩に掛けて恰好だけはカメラマン気取り。下手くそな写真を撮りまくっていたものです。まだ銃撃戦に慣れておらず、今思えばその腰は後ろに引けてへっぴり腰でした、おそらく。
それでも、動きだけは良かったのでしょう。現場で出会った写真家集団『マグナム』のブルーノから、
「動きが良いね。立ち位置が面白い。写真を勉強したことがない?そんなの関係ない。パリにおいでよ。一緒にやってみないか?」
と誘われました。一匹狼を気取る私はその誘いに乗る事はなく笑って聞き流しましたが、後になってすごい人に誘われたことが分かり、驚きと感動が体の奥底からじわじわと湧いてきたものです。彼の誘いに乗っていたら世界的なカメラマンになっていたかもしれませんね(笑)。
ブルーノに会ったのは50年前の1972年2月。前の週に起きた「血の日曜日」(英軍空挺部隊がデモ隊に発砲、14人の死者を出した)に抗議する大規模なデモが北アイルランドの国境の町ニューリーで予定されており、その取材に現地入りした時でした。
何軒かの民家に泊めていただき、アイルランドの庶民生活から見たフォトエッセイに取り組む視点もブルーノに高く評価されました。でも、結果は惜敗。フランスの写真誌『パリマッチ』などの英仏の雑誌に持ち込みましたが、いずれもいいところまでいったものの、私の写真や記事が陽の目を見ることはありませんでした。
朝日新聞の轡田記者にもお会いしました。数時間ご一緒する内、現地の子供たちに囲まれてサイン攻めにあったのは懐かしい思い出です。子供たちは初めて目にするアジア人に興奮。次々に持っていたノートにサインを求めてきたのです。
そんな楽しい出会いもありましたが、そこは紛争地。流血の事態には至りませんでしたが、北アイルランド、特にベルファストは重苦しい雰囲気の中に時折見せる緊張感がなんとも不気味で気の休まることはありません。
ウクライナ情勢を見ていると、その規模の違いはあるものの共通点が多く、同じヨーロッパ独特のどんよりとした気候から受けるものもあるためか、「北アイルランド時代」が鮮明に思い出されます。そして心が痛みます。被写体になっていただいた方たちのその後の人生はどのようなものかと気になってもいます。
そんな思いを吹っ切る、それとも想いに浸る?ためにこの映画を観ておきたいです。岡崎の映画館では観られないようなので名古屋まで行ってきましょう。