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2022.03.02 (Wed)  06:01

義勇兵を志す「あなた」へ

 もしあなたがロシアのウクライナ侵略下で恐怖に震えるいたいけな子供達の姿に心を揺さぶられて憤慨し、その熱い正義心から「義勇兵として助けに行く!」と思っているようだったら、これを最後まで読んでください。

 私は長年、戦争の現場取材をしてきました。一時は毎日のようにTV画面に現れ、新聞や雑誌では私の取材記事や写真が使われていたので、それを見た若者が「義勇兵になりたい」「(武装組織に)所属したい」と仲介を頼んできたことが何度もあります。また、戦争現場にひとり入ってきて(迷い込んだ場合もありました)、軍隊(組織)に紹介して欲しい、と私に頼る人もいました。

 彼らの熱い志は分かりましたが、多くの場合、メディア報道に強く影響を受けて気持ちが先走って焦りすら感じられました。

 こういうタイプの人はえてして修羅場に立つと平常心を失い、突拍子もない行動に出て酷い目に遭うことが多いです。ですから、現実を知って考え直してもらい、どんな支援方法がその人に向いているのかを一緒に探す方法を採りました。

 先ず、「戦場では間違いなく誰かが死に、けがをします。それがあなたなのかもしれません。また、〝敵方〟に拘束され、最悪の場合は拷問され、死に至ることもありますよ」というところから始めました。至極当然のことですが、志願する人はヒーローになって活躍する自分の姿を思い描く傾向があります。爆音に肝を冷やし、銃砲声に長時間さらされて頭がおかしくなりそうになり、相手方に捕まって拷問を受けてもがき苦しむ、また地域全体を覆う死臭に、脳みそやはらわたが出た死体に嘔吐する自分は想像しません。

 それだけで何人かは気持ちが萎えました。

 そんなに簡単に相手の気持ちを読めるのか?と言われるかもしれませんが、私は常に相手の目を見て話します。「目は口程に物を言う」とは言いえて妙で、「心の動揺は目にそのまま出てくる」のです。まあ、それができなければ、私は戦場で生き残れなかったでしょう。

 次に、行われている戦争の歴史的、政治的背景を考えてもらいました。戦争当事者には当然、その是非はともかく「戦争の大義」があるからです。その辺りをしっかり押さえていかないと現場に入ってとんでもない行動(捕まえた相手方の戦闘員や住民への虐待など)に加担したり、自らそういった行動をしてしまう可能性があります。

 それと、外国人義勇兵を募る側の意図も考えてもらいました。そして、その功罪にも目を向けてもらいます。

「戦闘員が足らないから」という答えが先ず出てきます。

 それに対しては、具体的な数字を出して「十分である」ことを知ってもらいます。

 今回の場合も、60歳までの自国民に隊列に並ぶよう呼びかけており、その人数は十分だとの情報です。

 

 それではなぜ募集するのか?

 それは、「世界の目を引き付けるため」というのが答えです。

 自国の若者が戦場に飛び込んでいれば、その国のメディアや国民の多くは彼らに、そして戦争に無関心でいられません。

 他にあるのは、「人間の盾」の役割です。

 外国人義勇兵が死傷、または身柄拘束されれば、国際社会を味方につけられます。ウクライナ国民を守るための盾として期待されているのです。

 今回の場合もウクライナのゼレンスキー大統領がSNSを使って直接世界の若者に「義勇兵として共に戦ってくれ」と訴えかけています。彼は元俳優だけに訴える力があります。だから70人もの日本人がウクライナ大使館に志を届けたのでしょう。また、これからも報道に触れてより多くの人が押し掛ける可能性があります(3月3日の時点で、大使館に電話で問い合わせましたが最新の数字は教えてもらえませんでした)。

 でも、ここはひとつ冷静に考えてください。

 言葉もほとんど通じない中で、実戦経験のないあなたがどれほど活躍できるかを想像しましょう。自衛隊などで訓練を受けてきたといっても、実戦と訓練では雲泥の差です。訓練では優秀だったかもしれませんが、実戦で通用する保証はありません。

 日本政府はあなたたちに考え直すように求めています。「勝手に動かないでください」と〝警告〟しています。

 ということは、仮にあなたがウクライナ入りして、あなたの身に何かが起きても「私たちの制止を振り払って戦場に赴いたのだから自己責任」と切り捨てられる可能性があるということです。

 また、刑法93条「私戦予備・陰謀罪」に問われる可能性があることも頭に入れておいてください。

 その辺りは、主要閣僚が「義勇兵として参加することを奨励する」とBBCのインタヴューで公言した英国政府とは大きく違うのです。

 銃を手にあなたの命をかけなくてもウクライナの人たちを支援する方法はあります。私が書いたことを参考にしていただき、今一度自分に問いかけて最終的な結論を出されることを強くお勧めします。

 

 ウクライナ「義勇兵」に日本人70人が志願 50人が元自衛官 (毎日新聞2022年3月1日)

2022.02.28 (Mon)  09:19

ウクライナへの侵略と私

 ロシア軍のウクライナへの侵略が始まって以来、私の胸の内は重い闇に包まれています。

 私はこんな時、本来なら現場に入って皆さんに状況を伝える立場です。たまに「うずくでしょう?」と言われることがあります。でも、再び戦場に立つことはありません。

 5歳にして「戦争を無くす仕事をする!」と決めたものの世界から戦争はなくならず、その気持ちは、基本的には74歳になった今も変わることはありません。4年前にパレスチナへ、2年前にフィリピンに旅して、「体力的にはまだまだできる」と自分に語り掛けるもう一人の自分がいました。 ただ、そうはいっても、同世代の中では格段に元気でも、体力は正直で寄る年波に勝てるはずもなく、ここ数年で〝それなりに〟年齢は意識するようになりました。

 

 戦争取材に行かない理由は、高齢だけではありません。

 実は、約20年前から私は軽度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)が原因で睡眠障害を患い、20年近くずっと睡眠導入剤を使用してきました。それを今年初めに脱すること、つまりは〝ヤクをやめる〟ことに成功したばかりなのです。と言っても、専門医に定期的にかかることなく(一度だけ知人の精神科医に自分の治療計画を話して「それが実行出来たら大したもの」とお墨付きをもらいました)自力で脱したものですから戦火に身を置けばPTSDの再発もあり得ます。

 また、最愛の家族がいることも大きな理由です。青春を30年上の僕に賭けてくれた直子の夫として、また8歳の幼子の父親としての責任があります。

 そんな私に今何ができるか?

 その一つは、「徳川家康公の平和に対する深い想いを、世界中の人に知ってもらいたい」と考えて始めた〝人生最後の大事業〟を成功に導くことです。

 もう一つは、身近な話ですが、息子に戦争の愚かさ、悲惨さを理解してもらうことです。朝から晩までTVニュースをみたり、新聞や本を読む私の横に座って質問攻めをしたりする息子は、現時点では恐らくウクライナ情勢に最も詳しい小学二年生のひとりでしょう。映像や画像に映し出される破壊や悲痛な叫び、涙は彼の心に確実に届いています。

 現段階では、戦国武将にハマっていますから今朝もニュースを見終わった直後に『黒井城の戦い(明智光秀らが丹波国征討を目的に行った、赤井氏の堅城黒井城への攻城戦)』のYouTubeを楽しそうに観ていました。それはそれで自由にさせてやり、心のスキに「平和」を〝注入〟するのが私の作戦です。

 皆さんも、こういった機会です。あまり難しく考える必要はありませんが、それぞれの観点から「戦争と平和」を考えてみてください。 

第35回 「家出少年②

第34回 「家出少年①

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