新着情報

2022.03.12 (Sat)  08:40

戦争という現実

 あまりにむごい現実です。

 でも、これは今回の戦争で特徴的に起きたことではありません。全ての戦争で、僕たち戦場記者が直面してきた光景です

 戦争が起きれば、このように人は必ず死にます。しかも、その多くが無辜(むこ)の民衆であることは時代を問わず同じです。

 また、戦争はどちらの側が良い悪いでもありません。当事者の非難の応酬から何も良いものは生まれないのですから。理由がなんであれ、戦争という選択肢を無くすことが大切なのです。

 こういう事態を生まない理念の共有、社会の仕組みの構築が急がれます。

 

The New York Times 1.png

2022.03.12 (Sat)  05:44

スーパー住職逝く

 「毎日早朝、ホームレスの人に炊き出しをしているお坊さんがいます。会ってみませんか?」

 私たちがまだ「山の上」に住んでいる頃ですから10年近く前のことでした。そんな知人の誘いである日の早朝、名鉄東岡崎駅北口にある駐車スペースに行きました。

 「ハイハイ、たっぷり食べてくださいよ。温まりますからね」「食べてくれてありがとう」「来てくれてありがとうね」「またあしたも来てください」「今日はコーヒーもどうぞ飲んでってね」

 そう言いながら、どんぶりにおじやを大盛りにして渡している人は真冬だというのに薄着で、しかも裸足です。ひと段落着くとお坊さんは、別の場所へと姿を消しました。

 それまでにも沢山のヴォランティア活動に接して来ましたが、「朝4時起き」「365日毎日」「(差し入れはあるものの)自腹で」「単独で」という言葉に〝胡散臭さ〟を感じてその後何度か約束せずに現場に行ってみました。

 何度行っても目に入ってくる光景は同じです。彼独特の要支援者への優しい接し方は変わりませんでした。

 

 それ以来、何かと会う機会が増えて私たちが5年前に開いたカフェにもしばしば顔を出されました。

 その名は伊藤三学。若い頃は画家を目指したこと。様々な職業を経て僧門に入られたこと。そのきっかけが娘さんの死であったこと等など…話しを聞くうちに失礼ながら「本物」であることが分かりました。

 今年に入ってから「しばらく姿を見てないな」と思い、携帯に電話を入れてみました。

 いつもの元気な声でしたが、「ガンになってしまいました。でも元気ですよ♪」と言われるのでその言葉を真に受けて「また近くお会いしましょう。息子とその内(現場に)行きますね」と言って電話を切りました。

 

 しかし昨日、Facebookで杉浦コウメイさんが書かれていた訃報を見て三学さんがもうこの世の人ではないことを知りました。三学さんの携帯電話を鳴らすと、奥様が電話に出られました。

 2月27日に亡くなられていたことがわかりました。昨年12月に倒れられて、入退院を繰り返していたそうです。僕が最後に電話を入れた時も、退院したばかりのようで「そんな話し方をしていたのですね。炊き出しができるような病状ではありませんでした」との事でした。

 明日、一家3人で里山にある三学さんのお寺(本当に貧乏寺です。勿論良い意味です)へ行って最後のお別れをしてこようと思います。合掌。

 

【慈しみに満ちた三学さんの微笑みが感じられて、この絵を描かれたコウメイさんにお願いして掲載しました。タイトルにスーパーを入れたのは、超人的という意味もありますが、支援者からいただいたスーパーマンの衣装が気に入り、現場で着ておられたからです】

 

伊藤三学

 ロシア軍の侵略を受けて立つウクライナのゼレンスキー大統領。

 力強い弁舌と揺るぎない政治姿勢は世界の多くの人の心を打ち続けます。

敵(かな)うはずがないのに、それに屈することなく最強軍団を相手に頑張っている姿は皆さんのハートを鷲掴みにしているはずです。その姿は、まるで巨ゾウに立ち向かうアリ。

 でも、その一方で何か不可解な思いが頭をよぎりませんか?プーティン大統領がヒトラーに匹敵する人類最悪の独裁者と言われても何となく納得できない自分がいませんか?

 それはおそらく報道などである程度国際政治に接してきたあなたなら当然持つ感覚だと私は考えます。

 

 1980年~90年代に共産主義圏が混乱の中で崩壊し、ワルシャワ条約というNATOに対抗していた軍事同盟が解体されて四分五裂した後、ドミノ現象で東ヨーロッパ諸国の政治色が「赤(共産主義)から白(民主主義)」に一挙に変わっていく中で、〝約束と違うだろう!〟と20年余ゴルバチョフ、エリツィン、そしてプーティンといったロシアの歴代指導者が叫び続けてきた声が皆さんの意識の中におぼろげながら(失礼!)残っているのではないかと思います。それが「心の声」として語りかけているのではないでしょうか。

 彼らが言う「約束」とは、大きく分けて5つあります。

 それらをうまくまとめているサイトがあったのでここに紹介しておきます。

 独統一の際、NATO東方不拡大の約束はあったのか(NEWS SOCRA、2022年1月25日)

 

 サイトの著者は、記事の紹介にあるように、長年ソ連・ロシアを研究してきた元日本経済新聞のモスクワ支局長です。

 ここには詳しく書かれていませんが、90年代半ば旧共産主義諸国がNATOに入りたいと言い出し、97年5月にクリントン米大統領が中心になってロシア側と作った「平和のためのパートナーシップFounding Act(創設協定)」を忘れてはなりません。これは「東欧がNATOに入るのはロシアの合意が条件」という主旨のものです。

 当時はとても高い評価を受けた取り決めでしたが、1年後、不倫騒動で窮地に追い込まれたクリントン氏がそれどころでなくなり、対ロ交渉の舞台裏で行った口約束を、言を左右にして自己防衛に入ったため骨抜きにしてしまったのです。

 その後、旧共産主義国家は相次いでNATO入り。その数は14に上り、NATO加盟国の約半分(30分の14)にまでなりました。ロシアがNATOに事実上〝丸裸〟にされたとあわてても時すでに遅し。大勢は決したのです。

 そうなるとロシアにとってウクライナは死守しなければならない最後の防衛線。ウクライナがNATO入りして、ここにミサイル基地を造られれば、のど元にナイフを突き付けられたも同然。

 そのように危機感を募らせたロシア側が安全保障の担保をNATO側に要求し続けているのは当然と言えば当然ですね。

 ざっくりしたまとめ方ですが、以上このような背景が皆さんの「腑に落ちない思い」に影響したのではないかと思い、取り急ぎ書いてみました。

2022.03.02 (Wed)  06:01

義勇兵を志す「あなた」へ

 もしあなたがロシアのウクライナ侵略下で恐怖に震えるいたいけな子供達の姿に心を揺さぶられて憤慨し、その熱い正義心から「義勇兵として助けに行く!」と思っているようだったら、これを最後まで読んでください。

 私は長年、戦争の現場取材をしてきました。一時は毎日のようにTV画面に現れ、新聞や雑誌では私の取材記事や写真が使われていたので、それを見た若者が「義勇兵になりたい」「(武装組織に)所属したい」と仲介を頼んできたことが何度もあります。また、戦争現場にひとり入ってきて(迷い込んだ場合もありました)、軍隊(組織)に紹介して欲しい、と私に頼る人もいました。

 彼らの熱い志は分かりましたが、多くの場合、メディア報道に強く影響を受けて気持ちが先走って焦りすら感じられました。

 こういうタイプの人はえてして修羅場に立つと平常心を失い、突拍子もない行動に出て酷い目に遭うことが多いです。ですから、現実を知って考え直してもらい、どんな支援方法がその人に向いているのかを一緒に探す方法を採りました。

 先ず、「戦場では間違いなく誰かが死に、けがをします。それがあなたなのかもしれません。また、〝敵方〟に拘束され、最悪の場合は拷問され、死に至ることもありますよ」というところから始めました。至極当然のことですが、志願する人はヒーローになって活躍する自分の姿を思い描く傾向があります。爆音に肝を冷やし、銃砲声に長時間さらされて頭がおかしくなりそうになり、相手方に捕まって拷問を受けてもがき苦しむ、また地域全体を覆う死臭に、脳みそやはらわたが出た死体に嘔吐する自分は想像しません。

 それだけで何人かは気持ちが萎えました。

 そんなに簡単に相手の気持ちを読めるのか?と言われるかもしれませんが、私は常に相手の目を見て話します。「目は口程に物を言う」とは言いえて妙で、「心の動揺は目にそのまま出てくる」のです。まあ、それができなければ、私は戦場で生き残れなかったでしょう。

 次に、行われている戦争の歴史的、政治的背景を考えてもらいました。戦争当事者には当然、その是非はともかく「戦争の大義」があるからです。その辺りをしっかり押さえていかないと現場に入ってとんでもない行動(捕まえた相手方の戦闘員や住民への虐待など)に加担したり、自らそういった行動をしてしまう可能性があります。

 それと、外国人義勇兵を募る側の意図も考えてもらいました。そして、その功罪にも目を向けてもらいます。

「戦闘員が足らないから」という答えが先ず出てきます。

 それに対しては、具体的な数字を出して「十分である」ことを知ってもらいます。

 今回の場合も、60歳までの自国民に隊列に並ぶよう呼びかけており、その人数は十分だとの情報です。

 

 それではなぜ募集するのか?

 それは、「世界の目を引き付けるため」というのが答えです。

 自国の若者が戦場に飛び込んでいれば、その国のメディアや国民の多くは彼らに、そして戦争に無関心でいられません。

 他にあるのは、「人間の盾」の役割です。

 外国人義勇兵が死傷、または身柄拘束されれば、国際社会を味方につけられます。ウクライナ国民を守るための盾として期待されているのです。

 今回の場合もウクライナのゼレンスキー大統領がSNSを使って直接世界の若者に「義勇兵として共に戦ってくれ」と訴えかけています。彼は元俳優だけに訴える力があります。だから70人もの日本人がウクライナ大使館に志を届けたのでしょう。また、これからも報道に触れてより多くの人が押し掛ける可能性があります(3月3日の時点で、大使館に電話で問い合わせましたが最新の数字は教えてもらえませんでした)。

 でも、ここはひとつ冷静に考えてください。

 言葉もほとんど通じない中で、実戦経験のないあなたがどれほど活躍できるかを想像しましょう。自衛隊などで訓練を受けてきたといっても、実戦と訓練では雲泥の差です。訓練では優秀だったかもしれませんが、実戦で通用する保証はありません。

 日本政府はあなたたちに考え直すように求めています。「勝手に動かないでください」と〝警告〟しています。

 ということは、仮にあなたがウクライナ入りして、あなたの身に何かが起きても「私たちの制止を振り払って戦場に赴いたのだから自己責任」と切り捨てられる可能性があるということです。

 また、刑法93条「私戦予備・陰謀罪」に問われる可能性があることも頭に入れておいてください。

 その辺りは、主要閣僚が「義勇兵として参加することを奨励する」とBBCのインタヴューで公言した英国政府とは大きく違うのです。

 銃を手にあなたの命をかけなくてもウクライナの人たちを支援する方法はあります。私が書いたことを参考にしていただき、今一度自分に問いかけて最終的な結論を出されることを強くお勧めします。

 

 ウクライナ「義勇兵」に日本人70人が志願 50人が元自衛官 (毎日新聞2022年3月1日)

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